正に”ザハーロワのすべて”

Svetlana Zakharova Gala Performance
5連休の初日、XXキロという渋滞情報を聞きながら、「都内に残った自分は勝ち組かかも…」なんて、特に計画のない自分を妙な理屈で慰めつつ、今週2回目の上野に向かった。最近になって、特チケが出たので、急遽、観に行くことにした「ザハーロワのすべて」。会場に入ると、3階席より上には空席も目立ったが、特チケ効果か、1階、2階はほぼ埋まっているようだ。連休の興業って集客卵zが難しいんだろうな。

プログラムは2部告ャ。第1部はアルベルト・アロンヰUり付けの「カルメン組曲」だ。
冷戦下の?A時代に、プリセツカヤが同じ社会主義体制だったキューバのアロンモノ依頼して制作された作品で、当時は政府当局からの検閲や統制が厳しく、数々の困難を乗り越えて初演にこぎつけたという。

通常、クラシックバレエでは使われない、パラレルなポジションやつま先をフレックスにする動作を多用した独創的な振り付けが特徴で、作品全体に独特な緊張感とニュアンスが込められている。
登場人物はカルメン、ドン・ホセの他、闘牛士(エスカミーリョとはされていない)、コレヒドール(ホセの上官)、死を象徴する運命(牛のイメージ)、タバコ売りの女2名(カルメンの友達?)がメインで、原作にあるミカエラや盗賊の一味は出てこない。登場人物を凝縮し、カルメンと彼女に関わる男達、そして彼女のたどる道を象徴する運命が絡み合って進行するようになっている。

場面の転換が、ほぼ全て暗転で行われるため、演出は単調な感じがしたが、カルメン役のザハロワを始め、ホセのアンドレイ・ウヴァーロフ、闘牛士のアルテム・シュピレフスキーら、メインキャストがしっかりとした存在感を出し、とても見応えがあった。例えば、ウヴァーロフは、女に溺れて没落していく士官というよりは、あくまでも純粋で好感の持てる礼儀正しい青年、といった感じで、そもそもホセのイメージではないと思うが、原作のカルメンにインスパイアされた新しい作品、と考えれば、キャストのバランスも良く、しっかりとまとまった作品になっていた。

マイクロミニのセクシーな衣裳に身を包んだザハロワは、既製のクラシック・バレエのそれとははずれた動きやポーズをであっても、情熱的でこの上もなく美しかった。そもそもプリセツカヤのために振り付けられた作品だけに、主役があってナンボ、主役次第では駄作になってしまいかねないのだが、””ザハロワあってこそのカルメン””といえる圧巻の舞台だった。

第2部はボリショイ、マリインスキー、キエフのャ潟Xトを交えたガラ。古典のグラン・パ・ド・ドゥからコンテンポラリーな作品まで、バランス良く散りばめられた全8作品が披露された。

まず会場を沸かせてくれたのは「海賊」を踊ったニーナ・カプツォーワとイワン・ワシーリエフ。華やかでテクニック満載の「海賊」は、ガラには持ってこいの作品だが、今、飛ぶ鳥を落とす勢いのワシーリエフがはじけること! 空中で留まっているかのようなジャンプ、しなやかでスピーディな回転と、「バレエはテクニックだけじゃない」なんて言っていても、やっぱりこれだけ魅せられれば、脱帽するしかない。

続く2曲目はアンドレイ・メルクーリエフのャ香A「アダージョ」。ワシリーエフで沸いた客席をしっとりとした空気で包み込み、あっという間に彼の世界へ引っ張り込んでしまった。彼は、もちろん跳躍や回転といったすばらしいテクニックを持っているダンサーだが、それにとどまらず、彼の持つしなやかな動きや独特の感性で訴えかけてくる。男性の6分間のャ高ナ、テクニックではなく、その個性と阜サ力で感動させてくれる数少ない貴重なダンサーだと思う。

3曲目はザハロワのャ香uRevelation」。振り付けは平山素子さんで、彼女の自作自演により、1999年の第3回世界バレエ&モダンダンスコンクールのモダンダンス部門で第1位になった作品とのこと。
舞台には1脚の椅子があり、白いシンプルなロングドレス姿のダンサーが登場する。時には、まるで椅子とたわむれるように動いたり、天へ飛び上がったり、空気を切り裂くようにジャンプしたり、と、いつの間にか、その緩急卵zのつかない動きに惹きつけられ、目が離せなかった。

4曲目はキエフ・バレエのオリガ・キフャークとヤン・ヴァーニャによる「エスメラルダ」。士官フェビュスを恋するエスメラルダだったが、彼には婚約者がいて、その婚約を祝う宴で悲しみにくれながら踊る場面、ということで、日本でポピュラーなタンバリンを持ったバリエーションに見られるエスメラルダの雰囲気とは随分違っていた。
エスメラルダは常に悲しげで、せつない感じ。振り付けも、ゆったり、しっとりとしたもので、その雰囲気を壊さない、たっぷりとしたバランスや丁寧な動きがとてもよかった。

5曲目はザハロワとメルクーリエフが再登場。作品はイタリアの振付家フランチェスコ・ヴェンティリアが振り付けた「ブラック」。
黒のスカート付きレオタードのザハロワに黒のタイトなトップス+短パンといういでたちのメルクーリエフがテクノチックなビートにのり、めまぐるしく動く。無機質な照明に映し出されたダンサー達に、観る方はその””動き””のみに集中する。こういった作品で一番に思い浮かぶのはシルビィ・ギエムだが、彼女同様、奇跡のような肢体と並はずれた身体迫ヘを持ったダンサーのみが阜サできる究極のムーブメントだ。5分という短い作品だったせいか、あっという間に終わってしまい、正直、もっと観てみたい!と感じた。最も5分とはいえ、激しく動きっぱなしのダンサーにしてみれば、相当な体力を消耗するはず。長さとしては丁度良いのかも知れない。

6曲目はネッリ・コパヒーゼとシュピレフスキーの「マルグリット・マニア」。
この2人は、昨年暮れのボリショイ・バレエ団の公演で観ていて、特にコパヒーゼはお顔も美しく、優雅な動きと安定したテクニックで大好きになったダンサーだけに、実は今回の公演では、彼女に再会できることを楽しみにしていたのだ。
作品はベルギーの画家、ルネ・マルグリットの絵にインスピレーションを得た夢想的で不思議な世界を阜サしている、ということだったが、動きが淡々と続くばかりで、退屈してしまい、正直、この作品だけは、その良さがよくわからなかった。私に見る目がなかっただけかもしれないが。

7曲目、元気なワシリーエフ君が再登場。2005年のモスクワ国際バレエコンクールで披露された作品ということで、ジャンルとしてはコンテンポラリーかモダンに属するだろうが、ジャンプや回転の見せ所が盛り沢山だ。結局、ワシリーエフ君にはそのテクニックばかりに目が行ってしまうが、今の彼はそれでもいいと思う。クラシックのポジションにとらわれない中、自由奔放に動き回る彼はまるで解き放たれた野生動物のように、フレッシュでエネルギッシュだった。

公演のトリはザハロワ+ウヴァーロフのドン・キ。カルメンでタバコ売りの娘をやったキエフのタチヤーナ・リョーゾワとキフャークもバリエーションで再登場する。
ザハロワとウヴァーロフのドン・キは何回か観ているが、これはもう、文句の付けようがない。クラシックに戻ったザハロワは、きっちりとバランスをとり、コーダのグラン・フェッテでは3回目にダブルを入れる大サービス。ウヴァーロフとのパートナーシップも全く危なげがなく、公演のオオトリに相応しく、大いに会場を盛り上げてくれた。

最後には全員がテクノチックにアレンジされたバッハの曲にのってそれぞれの得意技(?)を披露しつつ、最後にルベランスに繋げるという憎い演出付き。拍手が鳴りやまず、これはアンコールにもう1回披露してくれた。

それにしても、第1部のカルメンに引き続き、第2部ではモダン、コンテ、クラシックと大活躍のザハロワ。10分~15分で着替え(ヘアメイクも変えていた)、3つの異なる顔を魅せてくれた。その体力もさることながら、改めて彼女の引き出しの多さと深さを堪狽キることができ、正に「ザハーロワのすべて」というタイトルに相応しい公演だった。