肉体が阜サする旋律 モナコ公国モンテカルロ・バレエこのバレエ団、以前からチラシや雑誌の公演レビューなどは気にかけていたものの、劇場へ脚へ運ぶ機会に恵まれず、生で見るのは今回が初めてだ。観たのは「Alto Canto ?、?」。2006年、2008年に製作された作品で日本初演とのこと。クラシックとは全く違った世界に、先入観なしで対面してみよう、という気持ちで臨んだ。 公演は2部形式で、最初に「Alto Canto ?」。幕が上がると、下手よりに巨大なスクリーンが立っていた。黒服を着たスキンヘッズのダンサー、ガエタン・モルロッティがこのスクリーンに自身の身体をシルエットで映し、映し出されたシルエットと、時に戯れるように、時に戦うかのように動く。その動きには、動的な勢いが最大限にコントロールされているような、独特の滑らかさがある。その後、2名の女性ダンサー、ベルニス・コピエテルスとモード・サプランが登場。背中を丸めて手をだらりと垂らし、膝を少しだけ曲げて、踵を上げたまま小刻みに歩いてくる。なぜか、串に刺された魚を想像してしまった。この2名はスクリーンの前にくるとぴったりと重なり、二人羽織のように、前のダンサーの手の動きを後ろのダンサーが演じたりする。ここにまたモルロッティが絡み、それは実物の人間と、スクりーンに映し出されるシルエットとで、2重像になって展開していく。次第に次々とダンサーが登場し、最後は12名のダンサーが激しく動き、スクリーンには人型のアニメーションが出てくる。モルロッティはこのアニメーションの人型と戦うかのように絡み、また、静かになって……と、つらつら書いていても、あのシーンを阜サすることはできないことに、あらためて気付く。 なんと言ったらいいのだろう。音楽も装置もすべてが抽象的で、おそらく観る人それぞれの感性で、勝手に想像し、感じる、そういう舞台としか言いようがない。不思議な音楽、不思議な登場人物、不思議な動き、それは「不思議」としかいいようがないのだが、スクリーンと照明を使った視覚的マジックも含め、すべて計算されているように見える。 第2部は「Alto Canto ?」。こちらはバロック音楽を使い、ろうそくを小道具に男性同士のデュオ、そこに女性が絡むトリオ、数組の男女によるアンサンブル等が次々と繰り広げられる。こちらは1部の「Alto Canto ?」と比べると、わかりやすいかもしれない。「わかりやすい」という阜サが適当かどうか、は疑問が残るところだが、ダンサーの動きや身体そのものが音楽を阜サしている、というのが「とっつきやすい」というべきか。 ダンサーの動きがとても面白い。それは、リフトをされれば、水中を泳ぐ魚のようであったり、ポーズをとれば重力のない空間に浮いているようであったり、とにかく全てが滞ることなく、滑らかなのだ。超モダンな振り付けにもかかわらず、時にはボーカルも入るバロックの音楽と調和し、幻想的な世界を作り出す。 振付け家ジャン=クリストフ・マイヨーのアタマの中は、凡人には到底計り知れない。とにかく、何もかもが不思議で、観客のありとあらゆる感覚を刺激してくる。そして、それを阜サするダンサーの素晴らしいこと。クラシックと違って、中途半端なポジションでの動きが多いから、下半身のみならず、体幹から腕まで、徹底的に鍛え上げられている。女性ですら、細いながらもムキムキなのだ。・・・・さすがにチュチュは似合うまい。ポアントを履いたテクニックも出てくるが、これはクラシックとは全く違ったジャンルのパフォーミングアート。人間の身体の阜サ力って凄い。 投稿ナビゲーション ピンクのチュチュピンクのチュチュ