お祭り その2

第12回世界バレエフェスティバル プログラムB
“先日に引き続き、今度はBプロを観に行った。Aプロで魅せてくれたダンサーが、別の作品ではどんなパフォーマンスをするのだろう、と期待も高まる。自ずと、先に観たAプロと比べてしまうし、プログラムの順番なんかでも印象は左右されそうだが、観たまま、感じたままを綴っていくことにする。
ただ、前日に海で潜っていたり、その後、気の置けない仲間と飲み明かしていたり、があって、当日クルマで4時間かけて東京へ戻ってきた…..といういきさつがあり、マチネとはいえ、体調は決して万全ではなく、コンテンポラリーの作品では睡魔に負ける瞬間もチラホラ。その点は反省しきりだ。

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●「チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ」
振付:ジョージ・バランシン/音楽:ピョートル・I.チャイコフスキー
マリアネラ・ヌニェス ティアゴ・ャAレス

ヌニェスは詩情があってとてもシンパシーを感じるダンサーだ。優雅な動きとあふれるような新鮮さに加えて、華やかさもある。今年のフェスには、ロイヤルからコジョカル、ロホ、ヌニェスと3人の女性ダンサーが参加しているが、それぞれ異なった個性を持っていて、頼もしい。来年のロイヤルの来日公演が楽しみだ。

●「コッペリア」
振付:アルテュール・サン=レオン/音楽:レオ・ドリーブ
ヤーナ・サレンコ ズデネク・コンヴァリーナ

Aプロの「くるみ・・・」でも感じた事だが、この2人は、これといって悪いところがない。それなのになぜか印象が薄いのだ。テクニックもしっかりしているし、ラインも綺麗なのだが、良い意味でも悪い意味でもアクがない、というか…..。 眠りならブルーバード、ジゼルならペザント、といった収まりかたにぴったりなのかもしれない。

●「アレクサンダー大王」
振付:ロナルド・ザコヴィッチ/音楽:ハンス・ジマー
ポリーナ・セミオノワ フリーデマン・フォーゲル

Aプロの「マノン」はイマイチに感じられた2人だったが、これはよかった。セミオノワはバレリーナとしてはかなりグラマーで肉感的なのだが、ブラトップに大きくスリットが入ったロングスカートというセパレートの衣裳が彼女の個性に合っていた。解説によると、愛と憎しみ、情熱や嫉妬など、人間のあらゆる感情が阜サされた官箔Iなパ・ド・ドゥという事だが、エロチックといっても下品でいやらしい感じはまったくなく、身体は柔らかくしなり、ポーズは彫刻のように美しかった。もう一度観てみたい作品。

●「海賊」より “”寝室のパ・ド・ドゥ””
振付:マリウス・プティパ/音楽:リッカルド・ドリゴ
シオマラ・レイエス ホセ・カレーニョ

リフトの大技が多く、男性はサポートに徹する、といった感じの振り付けだ。コンラッドはロミオよりはホセに合っていると思うが、このパ・ド・ドゥだと男性の見せ場は少ないので、ホセのファンには物足りないかも知れない。レイエスはネグリジェスタイルの衣裳だと寸胴に見えてあまり似合わないように思う。おそらく私の好みがレイエスと一致しないからだろう、決して悪くはなかったが、かといって凄く何かを感じさせる、ということもなかった。

●「白鳥の湖」より “”黒鳥のパ・ド・ドゥ””
振付:マリウス・プティパ/音楽:ピョートル・I.チャイコフスキー
上野水香 デヴィッド・マッカテリ

Aプロの「ジゼル」があまりよくなかったのは、彼女にジゼルが向かないからか、と思っていたのは、どうやら思い違いだったようだ。彼女はオディールでも動きがぎこちなくて、繋ぎが雑な感じがした。グランフェッテにダブルを入れても、全てシングルだったザハロワのオディールの比にもならない。何というか、バレエを観た気がしないのだ。この人がプリンシパルで東京バレエ団は大丈夫なのか?と心配になってしまった。

●「パリの炎」
振付:ワシリー・ワイノーネン/音楽:ボリス・アサフィエフ
マリア・コチェトコワ ダニール・シムキン

上野さんのオディールにすっかり気分が落ちてしまったところで、シムキンが一気に爆発してくれた。シムキンはとにかく良く回る。ポジションを変えながら7-8回転はザラに回るのだが、回転軸がまっすぐなまま、引き上がっていくのがわかり、そのテクニックには驚愕するばかりだ。超絶技巧をあくまでもバレエの優雅さを失うことなくやってのける。Aプロのチャイパに比べると、パリの炎の方が自由に踊れるのだろう、コチェトワと2人で更にはじけ飛び、会場の盛り上がりかたも半端なかった。

●「ナイト・アンド・エコー」
振付:ジョン・ノイマイヤー音楽:イーゴリ・マルケヴィッチ
エレーヌ・ブシェ ティアゴ・ボァディン

20分の休憩後に始まった第2部はコンテンポラリーの作品が多かった。ここに来て、前日からの疲れが出てしまい、睡魔が襲ってきたのだ。抜群のプロポーションを持つブシェをしても、私の睡魔を取り払うことができなかった。残念。

●「スリンガーランド・パ・ド・ドゥ」
振付:ウィリアム・フォーサイス/音楽:ギャヴィン・ブライアーズ
アニエス・ルテステュ ジョゼ・マルティネス

あくまでも個人的な事情に過ぎないが、ここで続くコンテ2作品は辛かった。この作品は音楽にメリハリがないこともあって、睡魔がさらにパワーアップ。どうも今回、ルテステュとマリティネスには縁がない。

1249882906●「白鳥の湖」第3幕より
振付:グレアム・マーフィー/音楽:ピョートル・I.チャイコフスキー
ルシンダ・ダン レイチェル・ローリンズ ロバート・カラン

Aプロのピクニック・パ・ド・ドゥがあまりにも短く、あっという間に終わってしまい、印象が薄かったルシンダ・ダンだったが、この作品で本領発揮という感じ。
王子の愛人であるロットバルト伯爵夫人が、オデットの元に戻る王子を引き留めようとする三角関係が交錯するシーンで、ダンの気迫に満ちた演技がとてもよかった。来年のオーストラリア・バレエ団の来日公演でも上演が嵐閧ウれているので、次回は是非全幕で観てみたい。
余談だが、冒頭のチャイコフスキー・パ・ド・ドゥ、上野+マッカテリのブラックスワンに続くこの「白鳥の湖」で、アダジオや王子のバリエーションの音楽が被りまくり。演目や演出が違うとはいえ、もう少しなんとかならなかったのだろうか。

●「マノン」より第1幕のパ・ド・ドゥ
振付:ケネス・マクミラン/音楽:ジュール・マスネ
アリーナ・コジョカル ヨハン・コボー

マノンに扮したコジョカルが人形のように可愛い。どちらかというとレスコーの方がイメージに近いコボーだが、あの愛らしいコジョカルには誰だってメロメロだろう。相変わらず音のしないリフト、ちょっとした視線の絡ませ方が、2人の間に溢れるような愛を感じさせてくれた。
コジョカルは、ローザンヌ出場の際には、ベッシー校長(ヴェルピアン先生だったか?)にめちゃくちゃに言われていたが、元々身体迫ヘが高かったし、ここ数年は演技力も増し、凄く魅力的なダンサーに成長したと思う。これも来年の来日公演が待ち遠しい….反面、お財布事情を考えると途端に冷や汗が….。

●「アパルトマン」より “”ドア・パ・ド・ドゥ””
振付:マッツ・エック/音楽:フレッシュ・カルテット
シルヴィ・ギエム ニコラ・ル・リッシュ

扉の前で繰り広げられる男女の想い? 女の妄想? いろいろと想像が広がって厭きさせない。Aプロのギエム+ル・リッシュは物足りなかったので、Bプロを観に来てよかった。最近のギエムはバレエ団のレパートリーにとらわれることなく、自分の好きな道を進んでいるようで、凄く自由な空気を感じる。決してバレエ団にいた頃が悪かったというわけではないだろうが、シチュエーションとしては、今、彼女のバレエ人生を謳歌しているのかも知れない。

●「ベラ・フィギュラ」
振付:イリ・キリアン/音楽:アレッサンドロ・マルチェッロ
オレリー・デュポン マニュエル・ルグリ

ルグリのやわらかい動きがすばらしかった。彼の身体はまだまだ動けるし、語ってくれる。デュポンはこういう作品より、古典をゴージャスに踊ってくれた方が観客も盛り上がると思うのだが、ルグリのチョイスにあわせているのだろうか。

●「海賊」
振付:マリウス・プティパ/音楽:リッカルド・ドリゴ
ナターリヤ・オシポワ レオニード・サラファーノフ

オシポワのジャンプが高い! Aプロのドン・キの時、ア・ラ・セゴンド・ターンの前のジュテを男性のサラファーノフと同じ高さを飛んでいてびっくりしたのだが、本当に彼女は男性とかわらない高さと滞空がある。ボリショイではステパネンコも女性ながら高いジャンプを見せるが、このダイナミックさはボリショイの伝統なのか。
この2人はテクニシャンで、ドン・キでも海賊でも大いに観客を沸かせてくれるといった点で、ガラにはぴったり。とはいえ、いつまでもこのままではいられないだろうから、今後、どんな風に成長していくのか興味深い。

●「ル・パルク」
振付:アンジュラン・プレルジョカージュ/音楽:ヴォルフガング・A.モーツァルト
ディアナ・ヴィシニョーワ ウラジーミル・マラーホフ

初めて観た。凄い。解説によると””恋愛の最終段階の作用を示す「解放」のパ・ド・ドゥ””とあるが、ビジュアルのせいか、ヴィシニョーワもマラーホフも何かに取り憑かれているようだった。
女性が男性の首に手を回し、キスをしたまま、男性が回転する振り付けはフィギュアスケートのアイスダンスでも観ているよう。軸になる男性の負担は相当だろう。
ルグリ+デュポン、ルテステュ+マルティネス組にも言えることだが、このマラーホフ組も、もうフェスティバルで古典は踊らないのだろうか。
Aプロ、Bプロのどちらかでは古典を踊ってくれても、と思うのは私だけか。

●「ブレルとバルバラ」  
振付:モーリス・ベジャール/音楽:ジャック・ブレル、バルバラ
エリザベット・ロス ジル・ロマン

ここでまた睡魔が….。
ベジャールが偉大な振り付け家であることは間違いない。ただ、着物を使ったり、すり足にしたり、という日本的要素の取り入れ方が陳腐に感じてしまうのは、なぜだろう。

●「エスメラルダ」
振付:マリウス・プティパ/音楽:チェーザレ・プーニ
タマラ・ロホ フェデリコ・ボネッリ

ロホの「エスメラルダ」は動画投稿サイトで観たことがある。回転が得意な彼女はくるくると、本当にコマのように回っていたが、生で目の前で演られると、やっぱり凄い。アダジオでは、アティチュード・プロムナードをする度にバランスを入れる、というローズ・アダジオでお馴染みの振りで、長いバランスを魅せてくれた。ローズアダジオだったら、王子のうち、2名ぐらい、差し出した手を触って貰えないんじゃないだろうか。
バリエーションではたっぷりな動きがセクシーで可愛らしく、それでいて、タンバリンを打ちながらのバランス技やピルエットもしっかり魅せる。コーダのフェッテでは4回転の大サービス。
こうなったらシムキンと組んで回転合戦でもやっちゃえばいいのに、とちょっと妄想してみた。

1249882906●「オネーギン」より第3幕のパ・ド・ドゥ
振付:ジョン・クランコ/音楽:ピョートル・I.チャイコフスキー
マリア・アイシュヴァルト フィリップ・バランキエヴィッチ

エスメラルダで盛り上がった会場も、すぐにアイシュヴァルトとバランキエビッチのオネーギンの世界に引き込まれてしまった。オネーギンからの手紙を受け取り、狼狽するタチアーナ。彼を拒否したいのに、目の前に彼が現れると、どうしようもなく惹かれていき、自分自身の心と戦っているタチアーナをアイシュヴァアルトが渾身の名演で魅せてくれた。一方、タチアーナにすがり、一度は自分の手に落ちたかと思われたタチアーナから、決意して別れを告げられるオネーギンを演じるバランキエビッチも負けていない。これほど複雑な心理を、セリフもなく踊りだけで阜サしているのに、それが手に取るようにわかるというのは、クランコの振り付けがいいのか、ダンサーの才狽ネのか。
Bプロではこういった演技系の作品が少なかっただけに、見応えがあってとてもよかった。

●「ドン・キホーテ」
振付:マリウス・プティパ 音楽:レオン・ミンクス
スヴェトラーナ・ザハロワ アンドレイ・ウヴァーロフ

これだけ個性的なプログラムが続いた大トリのドン・キ。ただただ盛り上げるために、飛んで、回って、になると、シムキンやオシポワ、ロホの残像が甦り、お腹一杯になってしまいそうなところに、Bプロでは正統派が締めることになった。
人間離れしているといえば、テクニックではなくて、その身体。ザハロワ姫は、いるだけで圧倒的な存在感を持っていて、終わってみれば、締めに相応しいパフォーマンスだった。