新国立劇場 オープニング・ガラ

ゴージャスなコールド
“ 2011-2012シーズンの幕開けとなる昨日=10月1日、新国立劇場へオープニング・ガラを観に行った。ニューイヤーにはオペラも交えたガラ・プログラムの公演をやっていたが、シーズンのオープニングにガラをやるのは初めてではないだろうか。公演は1日限り、ゲストに頼らず、良い意味で緊張感の溢れる貴重な機会となった。

 劇場に入ってみると「報道関係者受付」なんかが設置されていて、なんだか物々しい雰囲気。シーズンの初日を観るのは初めてなので、毎年、初日はそんなもんなのかと思っていたら、とんだゲストが。
開演直前、なにやら二階席がざわつき、客席から拍手が沸いた。振り返ってみると、二階の最前列に皇太子殿下がお出ましに。あ、あの物々しさはコレだったのね。どうやら二階席は一般客シャットアウトだったようだ。

 第一部は、現芸術監督、ビントレーの「アラジン」からの抜粋で、砂漠のシーンと、それに続く洞窟での宝石達の踊り。
「アラジン」の洞窟のディベルテスマンは、この作品の最大の見せ場になっていて、何度観てもうっとりする。役のひとつひとつは、オニキス、パール、金、銀、サファイア、エメラルド、ルビー、ダイヤモンド、と宝石の名前が羅列しているだけなのだが、アップテンポでシンセティックなアンサンブルがあるかと思えば、中世のメヌエット風、ダイナミックなアクロバットがあったりと、振り付けも衣裳も、変化に富み、個性的で、まるでくるくると回る万華鏡のように展開し、観る者を全く飽きさせない。

中でも、サファイアの湯川麻美子さんが秀逸。ディベルテスマンの1曲であるこの役が、彼女の個性を最大限に引き出すものか、といえば、必ずしもそうではないが、安定感のあるターンやバランスが、観ていてとても清々しかった。

ディベルテスマンの最後は、ダイヤモンドのワルツ。前に踊った宝石達も登場し、最高潮に盛り上がるところなんだけど、その先頭を引っ張るダイヤモンドのャ潟Xトが、ちょっと弱かった。すらっとして優雅な川村真樹さん、「ドン・キ・ホーテ」の森の女王では、堂々たる存在感で、ザハロワの向こうをはっていたんだけど、アップテンポは苦手なのか…? あ、でも、今年の5月に「アラジン」を全幕で観たときも、ダイヤモンドのャ潟Xトには、ちょっと不満が残ったのを思い出した。となると、ビントレーの振りが難しすぎるのかも知れない。

 さて第2部はパ・ド・ドゥが3本と「シンフォニー・インC」の最終楽章。

 まずは、パ・ド・ドウの1本目、「眠り…」のグラン。小野絢子さんのオーロラ姫は、ひとつひとつのパを丁寧に踊っているのは良かったんだけど、私にはちょっと硬く感じられた。オペラグラスでみると、横一文字に見える唇が、清楚な微笑みというよりは、とっつきにくい感じがしたせいかも。
デジレ王子は日本人にしては恵まれた肢体で、バロンを感じさせる伸びやかなマネージが印象的。ただ、女性の衣裳がシンプルな割りに、男性の衣裳がボリュームありすぎで、上半身が重たく見えてしまうのは勿体ない。ロシアンのデザインはあくまでもロシア人向きって事かな。

 2本目はマクミランの「ロミオとジュリエット」バルコニーのシーン。
ジュリエットの本島美和さん、役になりきって演じていて、この作品への強い拘りを感じるんだけど、ところどころで””テクニックをこなす顔””が出てしまうのが残念。マクミランの振りって、ほとばしる感情が身体を動かしているかのように、複雑な動きも、全くよどみなく流れていってこそ、音楽とも感情とも動きが一体化して、観客をどんどん引き込んでいくんだけど、それが、どこかで””ここは、こうしないと….””みたいな””素””が出てしまうと、そこで興ざめしてしまう。それだけマクミランの振り付けが難しいって事だろう。
そして、ロミオの山本隆之さん。ベテランで、今まで、彼の踊りもサポートも安心して観ていられたのに、ピルエットで回りきれなかったり、着地で大きく場所を移動してしまったり、と、全くらしくない失敗が目立った。調子が悪かったのか、既に年齢的な限界なのか。結果的に、このパ・ド・ドゥの完成度はイマイチ。だったらマクミランじゃなくて、ジゼルあたりにしておけば良かったのでは…..。

 3本目は米沢唯さんと菅野英男さんの「ドン・キ・ホーテ」グラン。米沢さんは、バリエーションで綺麗な2回転半のアティチュード・ターンを決めるは、グラン・フェッテで、扇子を持った手でアームスを動かしながらトリプルを入れるわで、テクニシャンぶりを披露。欲を言えば、ガラのドンキなんだから、もっと弾けちゃえばいいのに…..。でも、それが逆に生真面目な新国立劇場ダンサーの良さとも言えるか。菅野さんは、ちょっと頭が大きく体型的に残念。こればっかりは本人がどうにかできるわけじゃないんだけどね、バレエって残酷。

 ラストはバランシンの「シンフォニー・インC」
新国立劇場バレエ団が演るバランシンはハズレがない。コール・ド・バレエの細かい動き、フォーメーションの変化が、見事に揃っていて、いつまでも観ていたくなる。最終楽章だけなんて勿体ない!
ただ、以前も新国の「C」をみて感じた事なんだけど、ャ潟Xトよりコリフェやコールドの方が良い印象で、言ってみればャ潟Xトのャ潟Xトたるオーラ、””キラキラ感””に不満を感じてしまった。シンプルな白のクラシック・チュチュで、コールドの前に立つのであれば、それなりの体型でないと見劣りしてしまうのも事実。ドン・キの男性同様、本人のせいではないんだけど、ャ潟Xトの中に昭和な体型の人が混じるのは、ちょっとバランスが悪い。「C」では、そんな事も考慮して配役し、ベテランはベテランの良さを活かせる別のところで起用するキャスティングもあったんじゃないかと思う。

 振り返ってみると、なかなか見応えがあって良い公演だった。オープニング・ガラは値段もリーズナブルなので、来年も開催されるならチケットを手配したい。”