新国立劇場 パゴダの王子

兄弟愛勝継母@仮想的日本国内
先週の日曜日、芸術監督デヴィット・ビントレーの新制作バレエ、「パゴダの王子」、千秋楽を観に行った。ビントレーの作品は、「カルミナ・ブラーナ」は大好物、「アラジン」もそこそこ気に入ってる。彼は、観客を楽しませる演出に長けていると思う。今回の作品は、日本を連想させる『菊の国』が舞台、富士山を思わせる舞台装置に、束帯風装束やお垂髪風髪型の登場人物、と、和風テイストが散りばめられ、且つ、チュチュ姿のコール・ド・バレエの見せ場もあり、で、お伽話のパラレルワールドを上手くまとめていた。

舞台は、幼い王子が亡くなってしまい、残された皇帝と妹のさくら姫、王子とさくら姫にとっては継母にあたる皇后が、王子を埋葬するシーンから始まる。
数年後、皇后はさくら姫を嫁がせようと、東西南北の国の王を呼びよせる。各国の王は、それぞれさくら姫に求婚するが、さくら姫はこれを拒否、5番目に現れた招かれざる客、妖怪を従え、トカゲの姿をした””モノノケ””に身を委ね、トカゲの国へ旅立ってしまう。
トカゲの国への道中、さくら姫は数々の試練を乗り越え、やってきたのはどうやらガムランが鳴り響くバリ島風の国。そこで、さくら姫は、自分を導いてきたトカゲが、死んだと思っていた兄だった事、兄は魔女の継母によってトカゲに変えられ、父や自分と引き離されて遠いトカゲの国で生きていた事を知る。
真実を知ったさくら姫は、トカゲ兄と共に『菊の国』に帰ってくる。そこは、さくら姫にも去られ、すっかり憔悴した皇帝を幽閉し、なぜか居座っていた東西南北の国の王を従えた皇后に支配されていた。
さくら姫は皇帝に真実を告げ、トカゲ兄と力を合わせて皇后を倒し、次いで東西南北の王も撃退。トカゲ兄は無事人間の姿に戻り、めでたしめでたしの大団円 ……というストーリーは、白雪姫に、眠れる森の美女、白鳥の湖にかえるの王様、あたりをミックスしたような。東西南北の王の扮装や扱われ方、トカゲ兄がトカゲに見えない、とか、つっこみどころも沢山あるんだけど、それは取り敢えず置いといて、一言で言えば『面白かった』。

キャストは絶妙で、さくら姫役の小野綾子さんは、たおやかで繊細、健気な雰囲気がぴったり。それでいて、踊りは正確で安定感があり、つま先のラインまで美しく、眼福。
皇后の湯川麻美子さんは、悪役を好演。実はこの役、途中までは、さくら姫以上の出番の多さで、さくら姫がトカゲの国へ行くシーンでは、手を変え品を変え衣裳を変え、と、七変化で登場、体力も演技力も必要な役柄なのだ。悪役らしく、最後はやられちゃうんだけど、その断末魔の迫力も良かった。
皇帝は出番や動きこそ少ないものの、だからこそ演技力や威圧感がモノを言うところ、堀登さんは流石ベテランの存在感。
それに比べると、トカゲ兄は、出番が少なく、トカゲの時は這いつくばってばかりなので、主役なのに見せ場がなかなかないのが残念だったかな。大団円のグラン・パ・ド・ドゥで、やっと踊りを拝めたって感じ。

『菊の国』で繰り広げられるコールドは、男女共に日本風。和服をイメージさせる衣裳でバレエを見せる、というのに成功していたし、試練のシーンでは、雲やら波やら星やら炎やら、チュチュ姿の女性コールドが活躍するファンタジックな世界や、被り物でコスプレしたタツノオトシゴと深海魚がユーモラスな動きで魅せるディズニーショーのようなエンターテイメント性も発揮。バラエティ豊かで飽きさせない演出はビントレーの真骨頂だろう。

個人的に、ダメだったのが音楽。ブリテンの音は、抑揚に欠けるというか、メロディーがはっきりしないというか、耳に入って来なくて、しばしば眠たくなった。これは好みの問題だけど、バレエって音楽のウエイトが大きいから、音楽が入って来ないのはキツイ。再演があったら…うーん、観に行かないかな。”