疾走するダンス

新国立劇場「アンナ・カレーニナ」
2年前に衝撃を受けた作品の再演。前回、再演があれば是非観たい、と思っていたので、迷わずチケットを手配した。

アンナを演じたのは2年前と同じく、ニーナ・ズミエヴェッツ。この人の身体迫ヘがまた、ずば抜けている。柔らかい関節と強靭な腱が共存する身体から繰り出されるスピーディでダイナミックな動きに驚嘆するばかり。ヴロンスキーも2年前と同じくオレグ・カブイシェフ。ややもすればぶっ飛んでしまいかねないパワフルなニーナを力強くサポートしていて、次々に繰り出されるアクロバティックなリフトも安心して見ていられる。カレーニンのオレグ・マルコフは長身の紳士といった雰囲気、妻の不倫に苦悩するという阜サは控えめで、コテコテ、ドロドロの愛憎劇になっていないところが、逆にすっと物語に入っていける気がした。
この3人が繰り出していくダンスは、例え写真に切り取られたポーズであっても、その動きが容易に想像できる。手や脚、背中が織り成すムーブメントで、ほとばしる感情や内面に隠された恐怖や苦悩が阜サされていて、振付家、ボリス・エイフマンの意図するところを、存分に発揮していたのではないだろうか。

展開はシンプルでスピーディ、それでいて、とてつもなくダイナミック!
一度幕が上がれば、主役も群舞も全力疾走、とにかく走って、跳んで、動きまくる。ダンサーに要求されるスピードと高さは最早アスリートのレベルだ。
群舞は、クラシック・バレエにありがちな、ポーズで待ってるというシーンが殆ど無い。シーンが変わるごとに衣裳を換え、入れ代わり立ち代わりで踊り続けていて、休む暇なんてほとんどない。これ、通しで動けるのって1回で限界なんじゃないだろうか、一体どんなリハーサルを重ねてきたんだろう? と余計な心配がわいてきてしまうほど、まるで踊りの洪水だ。群舞の中にャ潟Xトやプリンシパルが混じっているという、バレエ団メンバー総動員といったキャストで、オペラグラスで一人ひとりの顔を見ていると、中には、動くのに一杯一杯という感じで必死な撫?燻fえる。それでも、その動きのクオリティの高さには心からブラボーと言いたい。ダンサー皆が、群舞に要求される高いレベルを、しっかりと満たして、全力で疾走していった。

かねてから、このバレエ団は、良くも悪くも””優等生なバレエ団””という印象が強かった。コール・ド・バレエのレベルは高く、バランシンをやらせれば天下一品、ジゼルや白鳥、バヤデールの””バレエ・ブラン””も揺るぎない。でも「ドン・キ」だとちょっと弾けっぷりが物足りない。この作品では、ダンサーの一人ひとりが、自分の限界に挑戦し、壁を乗り越え、成長した結果、ひとつ殻を破った感じ。なかなか集客が難しいであろう作品なだけに、今後もチャンスがあれば注目していきたい。