3年ぶりのお祭り

第13回世界バレエフェスティバル<Bプログラム>
“ 8月11日、第13回世界バレエフェスティバル<Bプログラム>の初日を観に行った。Aプロもチケットを買ってあったのだけれど、仕事が忙しくてどうにも時間を作れずに断念、チケットを手放してしまったので、今回はAプロと見比べるという楽しみ方はできないけれど、今をときめくダンサー達を一同に観られるだけでも幸せなこと!
 満員御礼「大入」の垂れ幕がかかる東京文化会館に到着したのは開演15分前。天井から下がる出演者のバナーの写真を撮る観客などでロビーはごった返し、何か普通の公演とは違う、3年に1度の””特別なお祭り””気分に期待も高まるというもの……。

[第1部]
●チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ
振付:ジョージ・バランシン 音楽:ピョートル・I.チャイコフスキー
ポリーナ・セミオノワ/フリーデマン・フォーゲル

 幕開けに相応しい、華やかでフレッシュな2人だった。セミオノワは、独特のケレン味や動きの緩急があって正統派のバランシンというより、セミオノワ風味が全開。でもこの作品は、そんな風に踊り手の主張が出てくると、一味もふた味も違ってきてまた面白い。 フォーゲルの跳躍も健在で、初っ端から大いに盛り上げてくれた。

●パルジファル
振付:モーリス・ベジャール 音楽:リヒャルト・ワーグナー
カテリーナ・シャルキナ/オスカー・シャコン

 照明に映し出される大きな影と、その前で踊るダンサーとの対比が印象的な作品。マイヨーが同じように照明によって映し出される影とダンサーを更に絡める振り付けをしていたっけ…..。なんて事を思い出し、そう考えると、影を使った手法としては単純なせいか、初見にもかかわらず、なんとなく既視感を感じた。半裸の男性とハーフアップにした女性という典型的なベジャール・スタイルも既視感を増幅させたのかも知れない。

●タイス
振付:ローラン・プティ 音楽:ジュール・マスネ
上野水香/マシュー・ゴールディング

 マスネの美しい旋律と流れるような動きとの融合が「音楽を観ている」ような作品。バレフェで踊る水香さんは、古典作品だと、緊張しているのか、動きが固く、ちょっと他のメンバーから見劣りしてしまう事があったのだけれど、この作品では落ち着いて丁寧に踊っているように見えた。もう少し肩の力が抜けて、水香さんがやりたいように、自由に阜サできたら、もっと垢抜ける感じがする。でも3年前より進歩が見えたので3年後に期待したい。そうそう、ネグリジェスタイルのスカートの部分、背中心が丸空きだったのが気になってしまった。普通は縫うと思うんだけど……。

●エフィ
振付:マルコ・ゲッケ 音楽:ジョニー・キャッシュ
マライン・ラドメイカー

 終始痙攣する手の動きが、何かに憑かれたような、独特の空気を醸し出していた。個人的には薬物中毒の禁断症状とでも戦っているかのように見えた。ラドメイカーの肉体美を堪狽キるには良いのかも知れないけれど、ャ高フ作品としては長尺感否めず。第1部の4曲目だったから良かったものの、全公演の終盤に出てきていたら確実に眠ってしまったと思う。

●ライモンダ
振付:マリウス・プティパ 音楽:アレクサンドル・グラズノフ
タマラ・ロホ/スティーヴン・マックレー

 これぞフェスの醍醐味! シックなタキシードのマックレーに、夜会ドレス風オペラチュチュのロホ。幕が上がった瞬間、「一体どこがライモンダなんだ?」と、軽いジャブ。そもそもライモンダなんてあんまり回転技がない作品をロホが踊るのか、と思っていたのだけれど、そこはやっぱりフェス、蓋を開けてみればガンガン回るライモンダだった。
アダジオまではともかく、バリエーションもコーダも本来の振り付けは半分程度で、あとはロホ+マックレーのバレフェ仕様。ライモンダ独特のエキゾチックさも吹っ飛ばし、コーダでトリプルを入れたフェッテを回るロホに、観客は大いに盛り上がり、完全にノックアウトされたのだった。

[第2部]
●ロミオとジュリエット
振付:ケネス・マクミラン 音楽:セルゲイ・プロコフィエフ
アリーナ・コジョカル/ヨハン・コボー

 冒頭のロミオのャ高ヘ、コボーの実年齢を考えるとキツイだろうな、というのは想像に難くない。それでも、コボーと踊るときのコジョカルは本当に幸せそうで、2人の磐石なパートナーシップは安心して観ていられる。コジョカルのリリカルな雰囲気はジュリエットにぴったりだし、テクニックもしっかりしていてマクミランの振り付けを伸びやかに踊りこなしていた。

●ウィズアウト・ワーズ
振付:ナチョ・ドゥアト 音楽:フランツ・シューベルト
オレシア・ノヴィコワ/レオニード・サラファーノフ

 ナチョ・ドゥアトの振り付けは、音楽の抑揚をそのまま動きにしたような、それでいて、作品ごとに異なるテーマや独特の世界観を作り出して興味深い。この2人は古典作品を観たかったのだけれど、動きが滑らかで美しく、これもアリかな、と思った。カーテンコールの時、両脚を揃えてたったノヴィコワの膝がついていなくて、びっくり。必ずしもバレエ的に恵まれた骨格でなくても、これほど踊り、魅せる事ができるのだと再認識した。

●椿姫 第3幕のパ・ド・ドウ
振付:ジョン・ノイマイヤー 音楽:フレデリック・ショパン
アニエス・ルテステュ/ステファン・ビュリョン

 正直、終わったとき、「椿姫って、こんなんだったっけ?ルテステュってこんな踊りをする人だったっけ?」と感じてしまった。女性が大柄なせいか、ビュリョンが経験不足なのか、リフトは「よっこいしょ」感満載だし、全体に振りをこなすのに精一杯な感じがしてしまったのだ。ノイマイヤーやマクミランは、振りを追うのではなく、踊りこなしてこそ、その演劇性が際立って、心を揺さぶる感動が沸き起こってくる作品なだけに、正直残念だった。

●ラ・シルフィード 第2幕より
振付:ピエール・ラコット 音楽:じゃん=マドレーヌ・シュナイツホーファー
エウゲーニャ・オブラスツォーワ/マチュー・ガニオ

 東京バレエ団のコールドが入った豪華な演出。マチューの甘いマスクとオブラスツォーワのキュートな妖精ぶりがビジュアル的に完璧。おっとりとしたロマンチック・スタイルを貫いていて、跳躍や回転技で盛り上がる他の古典作品とは一線を画していた。スローな展開なのは作品の特徴なのだから仕方がないとしても、他の作品がテンポ良く進んでいくこともあり、ちょっと長かったかも。

[第3部]
●アダージェット
振付:ジョン・ノイマイヤー 音楽:グスタフ・マーラー
エレーヌ・ブシェ/ディアゴ・ボァディン

 これもメロディーに身体を委ねて作られたような音楽的な作品で、短いスカート付きのシンプルな白のレオタード姿のブシェがとにかく美しかった。

●シェエラザード
振付:ミハイル・フォーキン 音楽:ニコライ・リムスキー=コルサコフ
ポリーナ・セミオノワ/イーゴリ・ゼレンスキー

 冒頭のチャイパに続いてセミオノワが2度目の登場。彼女はグラマーなのだけれど、その動きはむしろアスリートを感じさせるオトコッぽさがある。彼女のゾベイダは確かに艶っぽいのだけれど、芯が強く、金の奴隷に身を任せるというよりは、貪欲で挑戦的。ゼレンスキーも存在感たっぷりで、2人の個性のぶつかり合いとエキゾチシズムが全作品の中でも異彩を放ち、印象に残る作品だった。

●アザー・ダンス
振付:ジェローム・ロビンス 音楽:フレデリック・ショパン
オーレリ・デュポン/ジョシュア・オファルト

 下手にピアノが配置され、ピアニストが弾くショパンの曲をバックに繰り広げられるシーンは、ダンサーのリハーサル風景を覗いているかのよう。パ・ド・ドゥの他にも男女2曲ずつのャ高ェ挿入されていて、古典のグランなんかに比べると長尺。それこそ稽古場で会話をしているような、ちょっとした間がそこらじゅうにあって、ピアニストに向ける何気ない目線や、ちょっと気だるそうに歩くオーレリの仕草が優美。オーレリじゃなかったらそれこそ間が持たなかったかもしれないところをきっちり魅せてくれた。

●海賊
ナターリヤ・オシポワ/イワン・ワシリーエフ
振付:マリウス・プティパ 音楽:リッカルド・ドリゴ

 この2人が踊ると途端に舞台が狭く感じる。3年前の凄まじいはじけっぷりに比べれば、ちょっと控え気味だったけれど、それでも跳ぶわ、回るわで、会場も待ってましたとばかりに盛り上がった。しっかり基礎を重ね、テクニックを積み上げたダンサーの強さを見せ付けられた。今日はBプロの初日だったので、明日以降はもっとノリノリになって行くのかも。

[第4部]
●ル・パルク
振付:アンジュラン・プレルジョカージョ 音楽:ヴォルフガング・A.モーツァルト
ディアナ・ヴィシヒョーワ/ウラジミール・マラーホフ

 3年間に初めて観たときは衝撃を受けたのだけれど、今回はそれほどでもなかった….、と同時に、この2人なら、まだまだビシバシ踊る作品を観てみたいという思いが沸き起こってきた。そういえば、3年前はダイヤモンドとこのル・パルクで、やっぱりマラーホフの使い方として勿体無い気がしたのだっけ。今回、ヴィニョーワはバヤデールの全幕を踊っているけれど、マラーホフはAプロもコンテンポラリー作品で、ガラは白鳥2幕、王子のバリエーションもないって事は、もうビシバシ踊るマラーホフを観ることはかなわないのかも知れない。

●コール・ペルドゥート
振付:ナチョ・ドゥアト 音楽:マリア・デル・マール・ボネット
スヴェトラーナ・ザハロワ/アンドレイ・メルクリエフ

 本日2作品目のナチョ・ドゥアト。ザハロワ姫も古典で見たかったのだけれど、AプロもBプロもコンテンポラリー作品なのは彼女の意向なのかな。人間離れした美しい脚は長いスカートの中に封印、それでも彼女の長い手脚としなる背中がザハロワここにありって感じで、ドゥアトの振り付け作品というより、ザハロワが踊るってことに意義があったように思う。

●「ジュエルズ」よりダイヤモンド
振付:ジョージ/バランシン 音楽:ピョートル・I.チャイコフスキー
ウルリヤーナ・ロパートキナ/マルセロ・ゴメス

 ここ数年、必ずチョイスされているバランシン作のパ・ド・ドゥ。個人的に重厚で暗い旋律があまり好きではなくて、古典のグランに比べると男性の見せ場が少なく、今回もゴメスの印象が薄かったのは残念。ロパートキナが貫?フ存在感で、ひとつひとつの動作が本当にバレエ的で美しく、女王然として輝いていた。

1344765935●「オネーギン」より第3幕のパ・ド・ドゥ
振付:ジョン・クランコ 音楽:ピョートル・I.チャイコフスキー
マリア・アイシュヴァルト/マニュエル・ルグリ

 今回のプログラムでは、演劇性の強いドラマチックバレエが3組。マクミラン、ノイマイヤー、クランコと魅力的なラインナップだ。ただ印象としては、コジョカル組のロミジュリは悪くなかったけれど、ルテステュ組の椿姫が今一だったせいか、ドラマチックバレエを観た!感は薄かった。それが、このオネーギンで一気に魂を揺さぶられた。ルグリは、歳を重ねてなお、精神性や人生観に厚みを増し、オネーギンを熱演、タチヤーナ役は諸ェ番でもあろうアイシュヴァルトは、一瞬でタチヤーナの複雑な心情に観客の心を引き込み、短い1シーンだけなのに、まるで全幕を観たかのようにさえ感じられた。拍手も今日一番の大きさだったと思う。

●ドン・キホーテ
振付:マリウス・プティパ 音楽:レオン・ミンクス
ヤーナ・サレンコ/ダニール・シムキン
フェスのトリのドン・キ。常連のダンサーは既に踊ってしまっている事が多く、若手テクニシャンの登竜門的な位置付けになりつつある。3年前のオシポワ+サラファーノフ組やザハロワ+ウヴァーロフ組に比べると、サレンコがちょっと地味かな、と思ったけれど、なかなかどうして、きっちりしっかり見せてくれた。ただ、サレンコが徹底的にロシア風味なので、シムキンとのバランスも含め、好みは分かれそう。

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 全体として、古典とコンテンポラリーの散らばり方のバランスも良く、4時間半という長丁場ながら、適度に休憩が入り、とても楽しめた。今回はテレビカメラが入り、全曲ではないにせよ、10月にはNHKで放映嵐閧ェあるそうだ。その昔、NHKで放映された第4回の時のビデオは大切にとってある。今となっては出演者のほとんどは引退、中には故人となってしまったダンサーも。生で観られる貴重な機会、3年後も期待したい。”