配役バランスの難しさ

世界バレエフェスティバル 全幕プログラム「ラ・バヤデール」
“ 4年に1度のオリンピックも終わっちゃったし、3年に一度の世界バレエフェスティバルも残すはガラ1日のみ。ガラは観に行けないので、夏のイベントが一気に過ぎ去ってしまった感じがする。先週、全幕プロのひとつ「ラ・バヤデール」を観に行ったので、それを書き留めておこう。

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 8月8日、3年に1回の祭典、、今年で13回となる「世界バレエフェスティバル」の「ラ・バヤデール」を観に行った。場所は東京文化会館、キャストはニキヤにアリーナ・コジョカル、ャ鴻汲ノヨハン・コボー、ブロンズアイドルにダニール・シムキン、バックは東京バレエ団が務める。

 個人的に「バヤデール」の全幕は大好きで、今までにも、ミハイロフスキー、ボリショイ、新国立劇場、谷桃子バレエ団、と機会があれば観てきている。東京バレエ団での初演時は、早々にチケットを手配していたものの、本番の日に用事ができてしまい、観ることができなかったので、今回はリベンジ、とばかりに楽しみにしていた。元々が長大なこの作品は、バレエ団やバージョンによって、演出や告ャに特徴がある。影の王国で終幕となる告ャも多いが、私はミハイロフスキーやボリショイの、寺院崩壊までのエピローグが入っている方が好き。果たして東京バレエ団のマカロワ版は、ストーリーを追い、寺院崩壊を含む3幕告ャになっていたが、婚約式のディベルテスマンが少なくコンパクトにまとまっていた。

 全幕を通して、とにかく、コジョカルとコボーのパートナーシップが素晴らしい。1幕の逢引きのシーンでは、コジョカルから溢れ出る幸福感が、空気すらも輝かせているようにきらきらしい。私生活でもパートナー同士であるこの2人、コボーの安心のサポートにコジョカルが全幅の信頼をおいていて、動きにはよどみがなく、力の緩急の付け方も自然で滑らか。そして二人が醸し出す絶妙な調和が見事としかいいようがない。二人とも小柄で、日本人ダンサーに囲まれても体格的な差が感じられないのも、全幕公演の主役としてバランス良し。

 さて、1幕は聖なる火の前での逢引き、大僧正の陰謀、ガムザッティとニキヤの対決、ガムザッティとャ鴻汲フ婚約式と、場面もストーリーもスピーディに展開していく。ここで、大きな役割を果たすのが、言わずとしれた敵役のガムザッティ…。ニキヤとの対決、婚約式でのグラン・パ・ド・ドゥと、テクニックはもとより、演技力と主役同様の華やかさが必要とされるポジションなのだから、この役のキャスティングには手を抜いてほしくない! この大役を務めたのは田中結子さん。テクニックはしっかりしていて、コーダのイタリアン・フェッテから三拍子のグラン・フェッテもきっちりとこなしていたのだけれど、コジョカルとの対決となると、どうしても見劣りしてしまう。彼女自身は、しっかりとパフォーマンスしているのだけれど、””格””が違うというか…。””世界バレエフェスティバル””の冠を掲げているのだから、できればニキヤの敵役、ガムザッティも相応なキャストを迎えて欲しかった。そうなるとチケット代が上がっちゃうのかも知れないけれど。
また、婚約式でのディベルテスマンは、「太鼓の踊り」「壷の踊り」等、この作品の特徴でもあるユニークな曲がカットされていたのも残念。その後の展開を考えると、ここで時間を割愛するしかなかったのか……。

 2幕はこのバレエの一番の見所でもある「影の王国」。このコールドは見応えがあった。一人ひとりが、手先つま先まで神経を行き届かせていて、一糸乱れずぴったりと揃い、幻想的で本当に美しかった。そしてコジョカルとコボーのパ・ド・ドゥ。元々身体迫ヘが高く、鉄板のテクニックを持つコジョカルにしては、珍しくバランスが長くなく(もちろん短いわけではない)、回転が不足したピルエットもあったけれど、そんな事は、一部にちょっとだけ入ってしまった雑音程度であって、やはりこの2人がつくり上げる空気と、そこから放たれるオーラが凄い。コールドの美しさもあり、とても見応えのあるシーンだった。

 3幕はシムキンのブロンズアイドルのャ高ナ幕開け。アクロバティックな振り付けを、まるで雑技団の超人のように見せるブロンズアイドルが多い中、シムキンのそれは、優雅でバレエ的、賛否あるだろうが、””美しいブロンズアイドル””で、一瞬にして会場の人気をさらった感じ。それにしても出番が少なくて勿体無い! この際、ブロンズアイドルは東バメンバーの若手にでもチャンスを提供し、ガムザッティこそゲストにして欲しかった。
 ブロンズアイドルのャ高ゥら続くのはガムザッティとャ鴻汲フ結婚式。女性コールドによるキャンドルを掲げた幻想的な踊り展開された後、ニキヤの亡霊が出てきてガムザッティとャ鴻汲ニのパ・ド・トロワになる。このトロワでのコジョカルとコボーの切なげさが秀逸。最早ガムザッティは蚊帳の外で、これはこれでカワイメ[な雰囲気。そういう演出だったのかもしれないけれど、もう少しこのトロワはガムザッティとニキヤが双璧のバランスで良かった気がする。
 クライマックスではついに神の怒りに触れ、雷鳴の轟とともに寺院が崩壊、ニキヤに導かれ、ャ鴻汲フ魂が天へ登っていく…。この最後のポーズがまたいい。天を仰いでしなるコジョカルの身体、跪くャ鴻求A二人を包むように天界から照らし出される光……もう少し余韻にひたりたかったのに、とっとと幕が降りてきてしまった。あれ、ちょっと早すぎだと感じたのは私だけではないだろう。

 と、何を思いつつも、S席15000円のコストパフォーマンスは高く、見応えがある公演だった。