幻のポアント

たかが/されど/の拘り
“ダンサーにとって、衣裳のサイズは勿論デリケートな問題だけれど、トウシューズのサイズはもっと気を使うものではないだろうか?
メーカーや型番は勿論、サイズや幅、クラウンの高さやヴァンプの長さ、シャンクの硬さ、側面の高さ、と細かいデータを元に、自分に最適な1足を選ばなければならない。
買う側が詳細なデータを吟味しているのだから、売る側にもデータの意味を理解し、その特徴を把握しておく必要がある。要するに、お客はかなりの拘りを持って注文してくるのだから、売る側にもそれだけの知識や理解が必要なジャンルなのだ。

最近になって、履き心地が気に入ったトウシューズが見つかった。以前は日本のショップでも売っていたが、ここ数年見かけなくなってしまったメーカーだ。アメリカのショップでそれを見つけ、試しに注文してみた。届いたシューズは、型番とサイズは私が注文したとおりだったけれど、幅が違っていた。そこで、交換もしくは返品を申し入れた。とはいえ、英語のメールがスラスラと打てるわけでもない。文章を書くだけでもうんざりする作業なので、実物のシューズの裏底を写真に撮り、メールに添付して送った。裏面には、そのシューズの詳細が様々な文字や記号で刻印されているからだ。
すると、先方が「何が問題なのかわからない」と言ってきた。何がって、刻印を見れば一目瞭然、私が注文した幅は””E””、送られてきたシューズの刻印は””F””だったからだ。私はまた慣れない英語で、刻印のひとつひとつが何を表しているのか、少なくとも私にとっては””E””と””F””の違いは大きく、送られてきた商品を履くことはできない旨、説明することとなった。””E””と””F””の実寸差は数ミリかも知れない。でも『たかが数ミリされど数ミリ』なのだ

日本のネットショップでも同じような事があった。こちらはサイズや幅の間違いはなかったけれど、シャンクが違っていた。これも刻印を見ればわかるものだし、そのショップのサイトでも細かい刻印の説明がなされているのに、出荷の際には、それを見落としていたらしい。

どちらも、当初に注文したものは在庫がなく交換できないので、返金処理となった。せっかく自分に合うトウシューズに出会えたと思ったのに、シルフィードの幻のように手元からすり抜けていってしまった……。