ロシアンオーャhックス

キエフ・バレエ「眠れる森の美女」
一昨日の11月28日、現在来日しているロシア系のバレエ団としては、マリインスキー劇場が大がかりな引っ越し公演を開催している中、いささか控え目(?)なキエフ・バレエを観に行った。実はこちらも11月初旬から12月下旬まで8週間に渡る全国公演を展開していて、この時点でまだ全日程の半分にさしかかったところだ。演目は「眠れる森の美女」。オーロラ姫にベテランのエレーナ・フィリピエワ、デジレ王子にセルギイ・シドルスキー、リラの精にユリヤ・トランダシル、フロリナ王女にカテリーナ・ガザチェンコ、ブルーバードにワーニャ・ヤンという配役。フィリピエワこそ、何かのガラで観た記憶があるが、他の面子はすべて初見。見どころ満載の演目だけに楽しみにしていた。

2回の休憩(計45分)を含んで上演時間3時間15分という長丁場だったが、最後までゆったりと楽しめる舞台だった。全体の印象として、いかにも古典的な正統派という感じがした。プロローグから1幕、最後の3幕まで貴族の衣裳は全員同じもので統一され、全てのマイムが””振り付け””として音通りに告ャされていた。演劇的な要素もすべて仰々しくバレエチックに動かれると、時としてわざとらしく、退屈に見えることもあるが、逆に動きや衣裳が統一されていることで、舞台全体をすっきりとまとめ、主役の動きやストーリーの運びに自然と目が行くので、全体の流れをスムーズに捕らえることが出来る。マールイ(レニングラード国立バレエ)でも感じることだが、ABTや英国ロイヤルと比べると、ダンサーの人種が揃っているせいか、体型や動きの質に調和がとれていて清々しい。

オーロラ姫のフィリピエワ、プログラムによると1988年からキエフ・バレエのャ潟Xトを務めているというのだから、既に21年のキャリアという大ベテランだが、ジャンプが軽く、16歳のオーロラ姫を見事に演じていた。ちょっと面白かったのが、この人は男性のサポートの入るピルエットで2度プリエをすること。しかも2度目のプリエの際には後ろの脚の踵が必ず上がるのだ。サポートなしのバリエーションでのピルエットではほとんど目立たないのに、サポートがつくと必ず2度プリエになる。バレエ教本的にはあまり好ましくないはずだが、この方がパートナーとのタイミングがとりやすいのかも知れない。

デジレ王子のシドルスキーは少々前髪前線の後退が気になるところ(失礼!)だが、優雅な動きで王子にはぴったりというところ。ただ、「眠り…」という作品は、2幕にならないと王子が出てこないし、3幕でも最後にグラン・パ・ド・ドウを踊るだけなので、出番が少なく、王子の見せ場が少ない。このバレエ団の演出だと、オーロラ姫とともに城全体が深い眠りにつつまれた100年後、リラの精に導かれた王子がやってくると、カラボスはすんなり城を明け渡してしまい、王子はカラボスと戦うこともない。すべてリラの精の思し召し、という感じで、デジレ王子の存在感は演出からしてもちょっと薄めなのだ。

「眠り… 」を観るからには外せない重要なリラの精、トランダシルはすらりとした長身で、このバレエ団の中でもピカイチのプロポーションだ。その長い手脚がしなやかに、たおやかに動く姿の美しいこと!首から背中のラインは特に綺麗だった。長身なので他5人の妖精の中に入っても一際目立ち、リラの精として充分な貫??oしていた。なかなか良いダンサーだと思ってネットで調べてみたのだけれど、あまり情報は拾えなかった。まだ新人さんなのだろうか。

フロリナ王女のカザチェンコ、ブルーバードのヤンも確かなテクニックで秀逸。カザチェンコはプロローグで””優しさの精””、ヤンは1幕でローズアダージオの4人の王子のうちの1人もやっていたが、共に3幕のブルーバードのグラン・パ・ド・ドゥの方が、本領発揮という感じでずっと良かった。

キエフ国立バレエ学校は今までにも、リアブコ、マトヴィエンコ、ザハロワやコジョカル等を排出した歴史ある学校だ。今回の舞台では、主役に圧倒的なカリスマ性があるとか、テクニック合戦で観客が沸く、というような事はなかったが(そもそも「眠り…」は、どちらかというとおっとりとした作品だし)全体によくまとまっていて、しめるところはしっかり締めた正統派—まさにロシアバレエの””オーャhックス””と感じた。最も、今ではウクライナという独立国だから、””ロシアン…””、と阜サするには語弊があるか。”