神話の世界へ

新国立劇場「シルヴィア」
秋晴れの文化の日、新国立劇場へ足を運んだ。演目は「シルヴィア」、新国ではお初の演目だ。

主役シルヴィアには米沢唯さん、そのパートナー、アミンタには菅野英男さん、ダイアナに堀口純さん、オライオンにマイレン・トレウバエフ、狂言回しでもあるエロスに八幡顕光さん、という布陣。今回は配役ではなく、日付けで選んだので、初めて見る「シルヴィア」にわくわくしながら座席についた。

ギリシャ神話の世界が舞台の作品だけれど、幕があがると、そこは、シュトラウスの「こうもり」を思わせる上流階級の邸宅。どうやら邸宅の主人であるグイッチオーリ伯爵夫妻の結婚記念パーティーが開かれている。自身の結婚記念日だというのに、お客の女性にちょっかいを出す伯爵に疑惑と失望をあらわにしている伯爵夫人。伯爵家に仕える召使い(アミンタ)と子どもたちの美しい家庭教師には、淡い恋心が芽生えているのだが、その思いもなかなか成就できずにいる。すれ違う彼らを影から見ている庭師。この庭師は愛の神エロスの仮の姿であり、彼らの心のスレ違いを見かねたエロスが、彼らをファンタジーの世界へ誘う、というプロローグから物語が始まる。

第2幕2場から神話の世界。ここでは、伯爵夫人が狩りの女神ダイアナに、家庭教師はダイアナに純潔を誓って仕えるニンフ達の一人シルヴィアに、伯爵は森の洞窟に棲む粗魔ネ狩人オライオンになっている。召使いは庭師のエロスに導かれ、青年アミンタとして神話の世界へ入り込む。
月明かりに照らされた洞窟の前に迷いこんだアミンタは、女神ダイアナと彼女に仕えるニンフ達が、狩りを終えて身体を休ませているところへ居合わせる。怒ったダイアナは彼を盲目にし、一行はその場を立ち去っていく。
しばらくして、ニンフの一人シルヴィアがアミンタの様子を見に戻ってくると、彼女は森に棲む野蛮な狩人オライオンに連れ去られてしまう。シルヴィアを助けたいと願うアミンタは、エロスに導かれ、追跡の旅に出かける。

第2幕はオライオンの洞窟。オライオンはシルヴィアを誘惑しようするが、シルヴィアは機転を利かせて彼にワインを飲ませ、泥酔させることに成功。そこへエロスに導かれたアミンタがやってくるが、シルヴィアはそこを逃げ出してしまう。

第3幕はダイアナの神殿(らしい)。アミンタはシルヴィアが神殿に戻ってくるだろうと踏んで、神殿の近くで身を潜めている。海賊船が到着し、海賊の頭は奴隷の女達をダイアナへ売ろうと話を持ちかける。その中には密かにシルヴィアが混じっていた。アミンタがシルヴィアに気付き、彼女のもとへ行くと、アミンタの目は見えるようになる。海賊の頭はエロスであり、彼によってアミンタの目にかけられていた呪縛が解かれたのだった。
そこへオライオンが乱入してくる。粗魔ネオライオンに辺りが騒然となる中、神殿の扉が開く。兜を被り、軍馬に騎乗したダイアナが現れ、怒り狂って魔黷驛Iライオンを馬で踏みつぶして殺してしまう。次にダイアナの怒りの矛先はシルヴィアとアミンタへ向けられるが、エロスの身振り一つで幻影が薄れ、舞台はファンタジーの世界から元の伯爵邸へと変化。グイッチオーリ邸の人々は、夢から冷めたかのように、自分たちの内面と向き合うのであった。

さて、無料で配布されていた配役浮ニあらすじを頼りに解釈してみると、ストーリーはこんな感じ。細かい突っ込みどころはあるかも知れないけれど、終始エロスが物語をリードし、唐突(あるいは陳腐)になりがちなタイムスリップという展開もすんなり入り込むことができた。

主要なキャスト以外でも、スキンヘッドにサングラスといういでたちで、なよなよと動くカマっぽい招待客といったファニーキャラあり(彼らは第2幕の洞窟でもオライオンの手下のような位置づけで余興を披露)、3幕にはネプチューン、マーズ、アポロ、ジュピターという神々のディベルテスマンあり、で、全幕ものとしてのボリュームも充分満たしている。

中でも圧巻なのがシルヴィアの米沢さん。プロローグこそ、スーツ姿で踊るところはないけれど、1幕2場からはほぼ踊りっぱなし。狩りの女神ダイアナに仕えるニンフ達の振りは細かい跳躍やスピーディな動きのオンパレードで、相当なテクニックと体力が要求されるところ。それをきっちりこなし、かつ情感のこもった踊りで主役として充分な実力を発揮していた。
アミンタの菅野さんは、2幕にはほとんど出番がないので、主役としての存在感はちょっと欠けるものの、丁寧な役作りとサポートで好感度↑。野性味溢れるオライオン役のマイレンは、ビジュアルも演技も””らしく””て流石。ダイアナの堀口さんは、線が細すぎで、男勝りのダイアナのイメージには違和感を感じてしまった。つま先の処理やテクニックにも緩さが見られたのが残念。楽日でちょっと疲れが出たのかも。
3幕に出てきた4人の神々も全て女性で告ャされていて、全体として男性の出番は少ない。この4名が、ネプチューン、マーズ、アポロ、ジュピターとなっているのだけれど、兜をかぶっている(おそらく)マーズ以外は装束が似ていて、誰がなんだかわからなかったんだけど、この辺は曖昧でもOKな演出だったのか、は不明。熱心なファンなら、ダンサーの顔と名前が一致していて問題ないのだろうけど…..。

とはいえ、ドリーブの音楽は美しく、ストーリーの展開もスピーディで、ところどころには余興としても見せ所もあり、最後まで飽きることなく魅入ってしまった。再演があったらまた足を運びたい作品だ。