ボリショイ・バレエ団 スパルタクス

マーシャ最強説
1328171589 やっぱりボリショイを観るなら「スパルタクス」は外せない。オケごと来日してくれる引越し公演ならなおのこと。諸事情で今年の来日公演へ行くのは諦めていたんだけど、天から降ってきたような機会に恵まれ、昨日、上野の東京文化会館へ足を運んだ。

キャストはスパルタクスにパヴェル・ドミトリチェンコ、その妻、フリーギアにアンナ・ニクーリナ。プログラムによるとドミトリチェンコはャ潟Xト、ニクーリナはファースト・ャ潟Xトと紹介されているけれど、それぞれ1月20日付けでファースト・ャ潟Xト、リーディング・ャ潟Xトへ昇格したそうだ。ローマ帝国の冷酷な司令官、クラッススはユーリー・バラーノフ(ャ潟Xト)、その愛人エギナに、我らが姉御、マリーヤ・アレクサンドロワ(マーシャ)だ。つまり、主役4名のうち、プリンシパルはマーシャだけ、この配役を見ただけでも、マーシャの独壇場であろうことは、想像できた。

かといって、マーシャが浮いていたわけではない。
マーシャが演じるエギナは、単なる悪役の連れではなく、野心も持ち、女の武器を使い、したたかに生きる女性であり、そのしっかりとした役作りで、ストーリーの一端を引っ張り続けるだけの存在感がある。考えてみれば、彼女は娼婦であり、クラッススの愛人という地位にいることで、ローマ帝国のヒエラルキー上部にいられる立場なのだから、クラッススの尻を叩いて奮い立たせているかのような強さにも頷けるというもの。
逆に権力の頂点にいるクラッススが、スパルタクスとの一騎打ちに敗れ、無様な姿を晒して悔しがる様子は、最初から貴族階級に生まれているクラッススの、お坊ちゃん育ちからくる弱さを裏付けているかのよう。
一方、理不尽な侵略により剣奴となって仲間を殺め、やがて反乱軍のリーダーになって一度は宿敵を倒すところまでいったものの、その後、仲間たちの不和もあって非業の最期をとげるスパルタクスには、逞しさや勢いとともに、苦悩や悲哀があり、単にマッチョで踊り倒しているわけじゃない。
スパルタクスを一途に愛し、支え続けるフリーギアは、出すぎず、しかし空気にならず、ストーリーの一番最後を見事に締めくくった。この主役4人のキャラクターがはっきりとしていて、マーシャ演じるエギナの強さも含めて、絶妙なバランスだったのだ。

それにしてもマーシャの男前っぷりったら半端ない。クラッススと一緒の振りを踊っても、スピード、ジャンプの高さ、空中での華やかさ、全く引けをとならない。個性が強いだけに、好き嫌いはあるだろうけれど、ギエムとはまた違った圧倒的な強さで、マーシャ最強ダンサー説を裏付ける出来だった。

もちろんコールドも秀逸。男性陣の層の厚さを見せつけられる帝国軍と反乱軍の怒涛の踊り合戦は、ボリショイでしか実現しないだろう。このコールドだけでも一見の価値あり、だ。

そして金管とパーカッションがブイブイ鳴らしてくれたブラボーのオケ。音も、ダンスも全てが「スパルタクス」らしく、洪水のような勢いとボリュームで躍動し、疾走していった舞台。本当に、良いものを観た、素晴らしい夜だった。